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2022.07.01

「未然課題」連続インタビュープロジェクト

#「未然課題」連続インタビュープロジェクト

オープンエンジニアリングセンターでは、「未然課題」をテーマに、東京大学生産技術研究所に所属する研究者へのインタビュー記事を公開してゆきたいと考えています。
研究者の視点からどのような「未然課題」を抽出することが可能か、研究のご紹介とあわせてインタビューを行いました。

#01 コミュニケーションの問題を超えたところに課題解決への道が生まれる|林憲吾
#02 想像力の先の「あり得るかもしれない未来」を想像する|菅野裕介
#03 科学コミュニケーションで抽出した社会課題を研究現場に届ける|松山桃世
#04 「低密度なまち」に持続可能な社会像を構想する|小南弘季
#05 地球規模の「未然課題」に取り組む次世代グローバルリーダーを育成する|ヘイチク・パヴェル
#06 データを磨き、100年先のリスクをもとに意思決定の枠組みを考える|山崎大
#07 30年後を見据え、これから先の課題として解いていくべきテーマを探す|中埜良昭
#08 自由な発想で生まれる多様な電池と電池資源の未来を担う産学連携プロジェクト|八木俊介
#09 「社会システム・デザイン」と工学の未来に必要な視座|横山禎徳
#10 工学で海の生産を上げる|北澤大輔
#11 脱炭素がもたらす文明の転換期に、新しいものを生み出す力を考える|鹿園直毅
#12 自動運転技術から、人と機械の相互作用を考える|中野公彦
#13 海中で働く自律型ロボットの未来を考える|巻俊宏
#14 化学物質を機能化する|石井和之
#15 ワイヤレス通信の理論から「再発見」に挑む|杉浦慎哉
#16 研究とは新しい分野を作ること-複雑ネットワークの新発見と非エルミート量子力学の開拓|羽田野直道
#17 宇宙ロボットのインテリジェンスを研究する|久保田孝
#18 データベースシステムの世界を変える|合田和生
#19 数式を道具に、循環する社会の実現を研究する|本間裕大
#20 需要側の視点でエネルギーシステムの課題を考える|岩船由美子
(インタビュー記事は順次公開してゆきます。)

このトピックスでは、わたしたちが考える「未然課題」の定義を説明します。
ただし、「未然課題」は社会や文脈によって異なる意味をもち得ると考えています。ここで紹介する「未然課題」の定義はあくまでオープンエンジニアリングセンターの現在の考え方であり、このインタビュープロジェクトを通して、その定義についても更新していきたいと考えています。

未然課題について

オープンエンジニアリングセンターでは「未然課題」を「いまだ顕在化してはいないものの、その発生が社会に大きなインパクトを与えることが予想される課題」と定義しています。

たとえば、政策において長期的ヴィジョンが欠如している場合に潜在する課題があります。政策意思決定者の多くは人口減少やインフラの老朽化などの問題に対して、「(見えておらず)先送り」か「(見えていないことにして)あきらめ」の態度をとっています。
しかし、こうした未来の事象を「先取りして適応する」ことも可能なはずです。

南海トラフ地震のような超広域災害や首都圏直下地震のような高密度災害を例にとって考えてみると、このような災害時には産業基盤やインフラ(道路、電気、ガス、水道、etc.)が多大な被害を受けることが想定されます。そして、これらに依拠する産業には多種多様なステークホールダー(異なる業種や規模の産業)が存在します。災害後、地域や国レベルでの早期の産業復旧が必須となりますが、そのためには「何」を「どこ」から復旧させるかの戦略が必要となります。

しかし、多種多様なステークホルダー間では利害関係が相反するため、結局は(合理的な根拠なしに)政治判断されるといったことが従来は多く見られてきました。
このような事態を避けるために、解決手法を(大災害が起きる前に)研究・提示することが重要です。言い換えれば、未然課題の解決とは、社会が合意するための技術とも捉えることができます。

一方で、自動運転などの新しい技術が社会に実装される際に、既存の法律との間に顕在化する課題も未然課題と呼ぶことができます。
これは、長期的なヴィジョンの欠如によって生じるものとは異なり、「連続的な社会変化」と「不連続な技術の発展」の齟齬によって起きる問題と言えます。
また、戦争やパンデミックのように問題は存在しているものの大衆が認知するまでに時間がかかるものや、「いじめ」のように必ず発生するリスクをもっていても誰もが当事者意識を持っているわけではない(自分が関わるとは思っていない)事象のうちにも未然課題を見つけ出すことができると考えています。

つまり、
未然課題とは、
① 既存の事象 または 常在する事象 または 未来の事象に対し、
② 見えていない または 見えていないことにすることによって、
③ 当事者と彼らが立つ状況のあいだに乖離や齟齬が生じた結果である。
と定義することができるでしょう。

未然課題の抽出とその可視化

未然課題のような問題は公表されない傾向にあるため、それらを客観的に集めることは困難です。対象となる領域(災害における未然課題や人口減少における未然課題など)を絞ったうえでヒアリングを実施し、語られていない「行間」を読み取る必要があります。
それに加えて、何を未然課題とするのかの基準の設定が必要です。何人くらいが知っている課題を未然課題とするか。オープンエンジニアリングセンターはマイノリティ(リサーチ)やフリンジ(リサーチ)を重要視していますが、優先度をどのように決定するかについて、より詳細な方法論の開発が必要です。

また、「知っている/ない」や「信じる/ない」といったことは不確実性の問題であるとも言えます。近年、災害が未然課題から課題へと認識されるようになり、国や自治体レベルでの対策が進められていますが、こうした変化を起こすためには災害という未来の事象の不確実性を下げていくことが重要でした。
災害の事前復興やシミュレーションのような方法論はさまざまな問題に対して適応可能であるため、これらの課題もうまくいけば社会を進める方舟になり得ると考えています。

多くの人は現状に問題はない、現状が良いと思っているため、未然課題の抽出はそれほど容易ではありません。そうした場合には、現状を維持するためには何が必要か、あるいは何が変わり得るのかといった、考える切り口を提供することが重要になります。
そのようにして、リスクの可視化を行うことが、未然課題の不確実性を下げ、当事者意識を育てることへとつながります。
東日本大震災以降、地域住民による科学的データの計測と共有が進展していますが、このような「はかる」行為そのものが地域の未然課題を自ら考えるきっかけとなると考えられます。

未然課題とオープンエンジニアリング

オープンエンジニアリングセンターでは抽出した未然課題をニーズへと転換し技術開発の種とする、つまりはマイナスである課題をプラスのニーズへと価値観の転換を行うことを命題としています。
しかし、技術開発をオープンな議論の場で行うことを仮定した場合、規制や慣習とのバランスをとることで保守的なものになってしまう恐れがあります。これは地域に技術を持ち込む際に技術の内容を先に提示すると、どうしても悪い側面ばかりが見えてきてしまい、実装が進まなくなってしまったという多くの経験からも明らかです。
未然課題をニーズへ転換するとは、社会実装の際に生じる問題を開発の種にするということであり、つまりは「連続的な社会変化」と「不連続な技術の発展」との間に生じる歪みをブレーキ材料ではなく、アクセルにするというアプローチであると言えます。

社会(当事者意識)⇒ 未然課題 ⇒ ニーズ ⇒ 開発 ⇒ 実装/社会(当事者意識)⇒ 未然課題

上の図式のように考えると、未然課題と技術開発はハイプカーブのように繰り返すべきものであることがわかります。それぞれの段階とその時々の当事者意識を、タイムスパンを区別しながら考えることが必要ですが、なによりも重要なのは、それぞれのバランスではないでしょうか。
言い換えれば、技術を肯定的に捉えながら、一般的には「見えていない または 見えていない」ことを未然的に抽出することで技術開発の発展を促すような、中継者としての役割がオープンエンジニアリングセンターに求められています。

そして、上記のようなバランスを調律するためには、解決策を提示するだけではなく、未然課題とニーズを双方向的に議論する場をつくり、オープンな状態を維持することが必要です。
そのためにも、初めに述べたように多くのステークホルダーの意見を仲裁する方法論や、地域住民の意見と科学的な知見の衝突を解消し、地域社会に受け入れてもらえること、つまりは合理的に社会の矛盾を解消する技術を開発していかなくてはならないと考えます。

#「未然課題」連続インタビュープロジェクト